2007年 06月 05日 ( 1 )
デリー周辺大暴動の実態
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 この写真。
 つい数日前、私の友人が通勤途中に撮ったものである・・・。

 日本のメディアで如何程の騒ぎになったのかは分からないが、こちらデリーでは5月末から6月初旬は、この話題で騒然としていた。

 一体何が起こったというのか・・・。

2007年5月29日 部族蜂起・・・
 この日、ラージャスターン州の2つの地区で、グジャー(Gujjar、ヴァイシャ(商人)カーストの下位に位置するカースト)階級の民衆がデモを敢行。
 道路の封鎖などを巡って警官隊と衝突、同日だけで16名が死亡する惨事に発展した。

 デモの背景には、カースト制度と物質的近代社会が交錯する複雑な事情があった。
 グジャー階級は、上述したようにヴァイシャカーストにあたる。
 元々遊牧民を指すこのカーストの者たちは、商人とはいっても経済的には殆ど基盤を持たず、その下の指定カースト(スードラや旧不可触民などのカースト+指定部族)の者よりも貧しい生活を強いられている者も少なくない。
 インド1年滞在時のレポートでも記したが、指定カースト者には大学入学・就職・政治的要職に就くなどの際に様々な恩恵が付与されている(留保制度)。
 ラージャスターン州のグジャー階級者は、前回の州選挙の際、カーストの名にこだわるより実利を選択し、自らを下位カースト同様に扱う様求めていた。これを票獲得の好機と見た政党BJP党がこれを公約として見事州の政権政党になった。

 結局選挙後3年経った今も、公約は果たされず、これに業を煮やした一部の過激派が実力行動に出たというわけだ。

 デモ・道路封鎖の舞台が、デリージャイプールとを結ぶ大動脈国道8号線であったことから、騒動は想像以上に大規模化。
 31日には新たに6名が死亡した。


日系メーカー等にも大きな影響
 騒ぎは、隣州のハリヤナやウッタル・プラデシュにも飛び火。
 週をはさんで6月4日(月)には、ハリヤナ州グルガオン地区およびウッタル・プラデシュ州ノイダ地区に数多く入居している日系企業が事務所・工場を一時閉鎖するという事態にまで発展。

 4日の夕方になって、グジャー階級者のリーダー格とラージャスターン州政府との間で停戦協定が締結され、事態は一旦は収束を迎えた。

 この間の死者は、計30名にのぼった・・・。


指定カースト 本音と建前
 この騒ぎ、3ヵ月後に特別委員会が作成するグジャー階級を指定カーストに編入するかを報告書に纏め、審議されることになっている。
 その時点で編入が否認されれば再びグジャー階級者の反発が、是認されれば既得権益を保有している現指定カースト者からの反抗が出るのは必至で、9月くらいにまたデリー周辺で騒ぎが起きる可能性を残している。

 今回の一連の事件で、非常に興味深かったのは、急速な物質社会化に伴うインドの中位~下位カースト者の心理の変化だ。
 インド独立期には、ガンディーは下位カースト者を神の子「ハリジャン」と呼び、インド人民の一員であることを再認識させ、独立のパワーに転用した。
 独立直後の混乱期、アンベードカルは下位カースト者の悲惨な事情を糾弾し、ついには他宗教への改宗を行い、これを薦めた。

 歴史を紐解くと、指定カーストの考え方は、1935年に制定されたインド統治法に遡ると言われている。
 この法律自体は、英国政府が下位カースト者・山間部族らに特別に議席を与えたものに過ぎなかった。
 が、インド憲法制定時には、ガンディーや初代法務大臣となったアンベードカルたちによって、指定カースト・指定部族に一定の恩恵が付与されていった。これが、現在の留保制度の始まり。

 この解釈が、指定カースト以外にも拡がっていったのが、1993年。指定カースト・部族には厳密には該当しないものの、経済的に厳しい状況に置かれている人たちをOBC(Other Backward Classes)と呼び、彼らにも留保枠を新設した。

 一部の過激な知識層やヒンドゥー教至上主義者たちの強烈な反発に会いながらも、この制度はインド全土に広がっていった。


 時代は移り代わり、インドは只今年率8~9%の超スピード成長中。
 外資もドンドン流入、急速な物質社会への転換期を迎えている。
 経済的成長の牽引役は一部の富裕層と言われ、大部分の下層階級はこの成長を実感出来る環境には無い。
 そんな環境下、彼らが最近考えること。
 それは・・・

   <カースト制度で上位にいるより、経済的恩恵を取った方が良い>

ということだ。

 今回のグジャー階級者の行動は、正にこの真理に則っている。



 急速な近代化・物質化の波に飲まれるインド。
 カースト制度とどう渡りあっていくのだろうか・・・?
by bharat | 2007-06-05 10:30 | ふと思うこと